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二択じゃない社会へ―選べるってすばらしい

りぷるさっぽろ 2022Vol.56 秋より

二択じゃない社会へ―選べるってすばらしい
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 少しずつ目にする機会が多くなってきたメンズメイクですが、まだまだ自分とは違う世界に感じている方も多いのではないでしょうか。札幌で暮らす3名の方にメンズメイクをはじめとした見た目や服装のこと、ジェンダーやアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)についてお話いただきました。

―メイクを始めたきっかけと、普段どんな時にメイクをするのかを教えてください。

田中 メイクを始めたのは、オンラインで研修などを担当しているときに、肌の様子が気になったり疲れて見えるのを何とかしたいと思い、パートナーの化粧品を借りたのがきっかけです。そこから身の回りにある男性用化粧品などが気になり始めました。

赤司 メイクは、高校や大学で友人が教えてくれたのがきっかけだと思いますが、今もシンプルで、最小限のメイクです。

佐藤 メンズメイクは数年前に友達に教えてもらい、始めました。予定や日によってメイクをするか決めています。

―メイクを始めてみて何か気づいたことなどはありますか?

田中 化粧って、学校では「するな!」と言われ、社会に出ていくのが近づくと、「化粧ぐらいしなさい」、「しないのは失礼だ」といった風潮がありますね。採用などの場面だと化粧しないといけないという意識をどうしてもみんな持っていますが、合わないと肌が荒れたり、ストレスがあるので、楽しさもある反面、大変さもあるのを感じました。

 それと、同僚からは否定的な感じは無く、私と年齢が離れている職員でも意外と同意というか、メイクまではいかないけど見た目には気を遣いたいと関心がありました。

佐藤 そうですね、なんで女の子は準備に時間がかかるんだって思っていたけれど、今は納得できます。あと「男はメイクがばれてはいけない」という思いがあったり、男性の方が髪色の規定など規則が厳しいですよね。

田中 意外と男性側に無意識に求められるものありますね。

赤司 私は社会に人を送り出す側の教育にも責任があると思っています。昨年校長になったとき「多様性を尊重しあう学校を作ろう!」と宣言したのですが、化粧や染髪を禁止する校則は人権侵害にもなりかねないとも思い、半年間の話し合いを経て令和4年4月に見た目に関する規則を撤廃しました。先生からの不安の声もありましたが、ルールではなく大人としての経験やアドバイスとして、教育的な対話をしましょうという話をして納得してもらいました。

 自由になったのでいろいろな髪色や化粧をしてくる生徒は増えました。メンズメイクをしている生徒もいるみたいです。社会の慣習からくるアンコンシャス・バイアスを少しでも持たないようにできれば、良い感覚が養われるのではとは思います。

―ジェンダーバイアスを感じるときや、自分がバイアスを持っていたという経験はありますか?

田中 ビジネスマナーなどに埋め込まれているバイアスはまさに気づくきっかけでした。マナー研修で、性別ごとに女性らしい服装、男性らしい服装と説明していましたが、そうではなくむしろ、女性のメイクを説明するのと同様に、男性がメイクする場合こんな感じがいいよねと言える方が良いと最近思っています。来年の研修では取り入れたいです。

佐藤 野球選手で、ひげを生やしたり髪を染めていて成績が悪いと「おしゃれしている暇があるなら」と叩かれたりしていて、成績とは関係ないのにそれが正しいような風潮がありますね。成績と見た目を天秤にかけるのはおかしいですし、変わっていったらいいですね。

田中 採用面接でも、メイクをする、TPOに合わせた服を着るのは相手を不快にさせない、相手への気持ちを自分の姿を通して表しているものなので、その本質を一人ひとりが考えることが大切なんじゃないかなって思います。個人的には気持ちはしっかりと相手に向いていて、不快にさせないのであれば、男女問わず、メイクのするしないは強制されることではないと思います。けれど、人によってはそうは思わない人、メイクが必要と思う人もいてまだ途上だと感じます。

赤司 服や化粧、髪型は、自己表現であると同時に、相手へのリスペクトであると教わりました。こういう風にありたいとか、化粧することで自信が持てるという自分のための部分もあるし、良い印象を与えたい、その場に合った恰好で相手に敬意を示したいといった他者への意識もあります。性別に関係なく、相手に心地よい印象を与えられるか、自分らしくいられるか、ただそこに尽きると思います。でも、そういられない根深い社会の慣習もあると思うのでなくなってほしいですね。

佐藤 校則で悪いことと言われたことは記憶に残りますし、学校で教わったことは正しいことと認識されるので、学校やメディアの影響も大きいですね。小中学生と関わるとバイアスが少なく寛容で、僕たち上の世代は時代に取り残されるだろうなと思います。でも勉強しなおす機会もないので、今の教育を受けたいです。

 新陽高校の生徒さんを地下鉄で見掛け、制服を着た金髪の人がたくさんいるのに驚いて、このかっこいい人たちはどこの高校だろう、と調べたことがあって、そういった学校が増えていけば変わっていくのにと思っていました。

赤司 ありがとうございます。金髪だと悪い子なんじゃないかと見る方もまだ多いので、いいねと言ってくださる大学生がいるのがとても嬉しいです。これまでは、髪を染めている子は授業に出さずに美容院で黒染めさせたこともあり、学習の機会を奪っているのではないかと疑問を感じていました。

田中 家庭でもそうですよね、親は、特別であってほしい、この子らしく個性を発揮してほしいと望んで、名前をプレゼントしますよね。でも、育てていく過程でほかの人から逸脱しないでと抑圧したり、普通はこうだから、と会話の中で言ったり、特別であってほしいなと思う反面、型にはめることは家の中でもありますね。

―メイクや性別のことに関して、皆さんからアドバイスやエールをいただけますか。

赤司 私はなるべく声を上げるようにしていますが、自分にもきっとまだバイアスはある、自分の主張が全部正義じゃないし、自分はフラットだと言うことによってだれかを傷つけているかもしれないと、普段から気を付けるようにしています。バイアスを持っているかもしれないと考えるのと、そうではない場合で周りへの影響や配慮が全く違うと思うので、一人ひとりが少し意識するだけで社会は大きく変わるのではないでしょうか

田中 まさにそうですね。自分自身が持っているバイアスと自分自身の主張が時には相手を傷つけるかもしれない、多様性の難しさを感じています。アンコンシャス・バイアスがある可能性を前提としたうえで、自分はこういう主義だと議論していく方が良いし、その危険性や、難しさには常に向き合っていかないといけないだろうと思いますね。

佐藤 偏見などは、実際自分がやったことがないとか、その人と関わったことがないというのも大きな要因だと思っていて、いろんな人と関わっていきたいですよね。

赤司 とても勉強になりました。「メンズメイク」って言わなくていいようになったらいいですね。メンズがつかない「メイク」って。

≪プロフィール≫

赤司展子さん

札幌新陽高校の「複業する校長」。新陽高校では「人物多様性」というビジョンを掲げ、ライフワークである学びの多様化に取り組む。ウィーシュタインズ株式会社 代表取締役、一般社団法人STEAM JAPAN 理事、NPO法人インビジブル 理事、社会彫刻家。

佐藤建人さん(仮名)

北海道の大学に通う学生。2年前に友達の誘いでメンズメイクを始める。最初はあまり乗り気ではなかったが、だんだんとその楽しさに気づき始める。肌が弱くたまに新しい化粧品で肌荒れをしてしまうこともあるが、自分の肌にあった化粧品やメイク方法を模索中。

田中基康さん

公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会 総務課 係長職。2007年採用。児童会館での勤務を経て、札幌市若者支援施設(Youth+)では、約10年間若者支援に携わる。さっぽろ若者サポートステーション事業で若年者就労支援等にも従事。 現在は、総務課で人事担当係長として職員の研修・採用・労務に関する業務を行う。