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【寄稿】不要不急じゃない!

MA・SO・BO通信 2022年11月・12月号より

【寄稿】不要不急じゃない!
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 新型コロナウイルスによるパンデミックが起きて早二年半以上の時が過ぎました。その間、舞台芸術は世界中で大きな制約を受けてきました。しかしその一方、その厳しい環境の中で様々な方法を駆使してしぶとく生き延びてもいます。

 僕の主宰する人形劇のひとり芝居・人形芝居燕屋もそのように活動を続けてきました。会場を屋外にする。観客席と舞台との間や観客と観客との間を開ける。観客の皆さんとともに色々な工夫をして、なんとか公演をつくってきました。こぐま座ややまびこ座でも同様だったかと思います。「上演が出来てよかった。観てもらえてよかった。」 毎回上演後には、そう感じてきました。と同時に、このコロナ禍の中でも子どもたちに人形劇を届けようとしてくれる大人たちが少なからずいる事に感銘を受け、そのような方たちと共に仕事が出来る事を誇りと感じてもいました。

 感染症の拡大と縮小の波に翻弄されながらも、2022年に入ってからは少しずつですが上演も戻ってきているように感じています。

■特別な上演

 さて、時間をパンデミックが始まった頃に戻します。日本中のどの劇団も同じような状況だったと思いますが、人形芝居燕屋では2020年3月から5月までの3か月間は全ての上演がストップしていました。電話が鳴るたびに、またキャンセルかと思いながら電話に出ていました。その頃「不要不急」という嫌な言葉が、時の首相の口から、またニュースの中から聞こえてきました。その言葉を聞く毎に、自分や自分たちの仕事がそう言われているよう感じられ、僕はとてもいら立っていました。それでも、ようやく6月には屋外で行うなどの形で上演が再開しました。

 その頃にあるご家族からメールをいただきました。ある医大の附属病院で一年前に僕の上演を観たというご家族からでした。(※)「自宅で公演をしてもらえないか」という内容でした。メールには「脳幹グリオーマという重い病気と闘う心菜という5歳の娘がいます。病院で観た人形劇をまた観たいとずっと言っていました。遠くても観に行くつもりでしたが、娘の病状が週単位で変化し、コロナもあり連れていくことができませんでした。」という事が書いてありました。少しでも早くというご希望もあり、その上演は6月下旬に上演は実現しました。彼女とその弟とご両親や祖父母。そして仲の良い隣家のご家族が観客。彼女は横になったままでしたが、最後まで観ていてくれたようでした。しかし、残念な事に彼女はその約ひと月後に旅立っていきました。

■不要不急ではない

 これは特別な例かも知れませんが、僕は心菜ちゃんを通じて、「日々変化をしている子どもたちにとって舞台芸術は不要不急なものではない」と確信しました。

 「僕たちの仕事は不要不急じゃない!」 声を大にして、そう言いたい気持ちでした。

 もちろん、大人にとってもアートは生きる上で必要なものです。パンデミック初期の2023年3月に、ドイツ連邦政府のグリュッタース文化大臣は「アーティストは今、生きるために必要不可欠な存在だ」と述べ、同国のメルケル首相は文化支援を約束しました。「ドイツ人になりたい!」 いら立った日々を過ごしていた僕は半ば冗談半ば本気でそう言っていました。

 話を子どもの事へ戻します。子どもは大人に比べ、濃密な時間を過ごしていると考えられています。心理的時間の密度は人生の長さに反比例するという考え方もあるくらいです。3歳の時間の密度は、30歳の時間の密度の10倍という考えです。そこまでではなくとも、子どもの1年は、大人になってからの1年よりも濃いな、という感じはわかるかと思いいます。また、子どもたちは日々目覚ましいスピードで発達し変化をしています。彼らにとっての昨日と今日は大きく異なるのです。そのような彼らがその折々でアートに出会う事は、大人にとってよりも重要な意味を持つと考えます。

 子どもの歩む道端に、アートという名のちょっと変わっていたり光っていたりするものを置いておく事。これは、大人の責務ではないかと考えています。

 札幌市では、大人の責任においてこぐま座ややまびこ座という「子どもの劇場」を置き、いつでも子どもたちがアートにアクセスできる可能性を提供しています。これは本当に素晴らしい事です。全国の自治体がこれを見習って欲しいし、わが国におけるその先駆者として札幌市がこの活動を益々盛んにしていって欲しいと願っています。

※その上演は「ゆいの会」主催で行われたものでした。「ゆいの会」は長期入院をしている子どもたちにプロの舞台をプレゼントしようという会です。

http://www.yuinokai.net/purpose.html

くすのき 燕

くすのき 燕

NPO法人日本ウニマ[国際人形劇連盟日本センター]副会長
日本人形劇人協会会員
全国児童青少年演劇協議会会員
全国専門人形劇団協議会加盟(人形芝居燕屋として)
1961年 東京都出身
1985年 信州大学人文学部心理学専攻卒業
1987年 プーク人形劇アカデミー卒業

出演・作・演出・制作・海外劇団の招聘など人形劇の領域を幅広く経験。そのフィールドも、こども劇場・おやこ劇場・幼稚園・保育園・学校・図書館・病院から神社仏閣教会・博覧会・市民祭などのイベント会場、ビデオやテレビと広く、国の内外を問わない。
現在、長野県内はもとより、全国で人形劇の上演、ワークショップのほか、映像出演や他劇団の演出を多数行うなどを多面的な活動を展開中。