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ユースワーカーが集まること、つながることの価値

YOUTH WORKER HAND BOOK 2より

ユースワーカーが集まること、つながることの価値
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 ユースワーカー協議会は、札幌、横浜、名古屋、京都、神戸のユースセンタースタッフを中心に、ユースワークに関わるスタッフの実践交流による専門的力量の向上と実践の言語化(エンパワメント)を進めるとともに、その社会的認知を拡大していくことを目的として設立した任意団体です。
 このハンドブックを編集するにあたり、ユースワーカーがどんな視点や能力を持ったらいいのかを考えながら章立てを行いました。その際に、「ワーカーが個人で力を付けるだけではダメだよね」という話が出てきました。ユースワーカーが社会的に必要で大事な存在だと理解してもらうためには、個人的な活動だけではなく、「専門家集団」「同業者集団」とでもいうものを形成して、互いに刺激し合いある場合にはチェックし合うことが必要だということと、「ワーカーの能力はチームや組織の力として発揮されるものだよね」という考えがその議論の背景にはありました。ただ、この内容はハンドブック(特に初心の人、初級の人を主なターゲットとした)には収まりにくいので、「補論」という形で各団体のユースワーカー同士が「ユースワーカーが集まること、つながることの価値」について座談会を行いその内容を掲載することにしました。

―ユースワーカーが集まることの価値とは

松田 ユースワーカーが集まったとしても、5団体だけでは点に過ぎない。私は、全国のユースワーカーが集まって点を線にしていくことが大切だと感じています。ドイツにはデュアルシステム(教育と労働を同時進行するシステム)という仕組みがあります。そこには、インターンシップのようにその職に就きたいという人に賃金を払うことで業界を育てる・守るという考え方があります。ユースワーカー協議会にも業界を育てる・守るということが求められるのでは。

竹久 自分にとって他のワーカー、同業の他団体は鏡のような存在です。見比べることで、その違いから得られる気づきがあります。また、ユースワーカー同士が集まることで、ステートメントを発信していけたら。

松田 誰に対してのステートメントでしょうか?

竹久 政策提言という意味ではなく、若者の声を社会に届けていくアドボカシーのような意味合いです。拡声器機能としてより大きなメガホンになることができると考えています。

 私はNPO法人の理事長という立場もあり、自分の後に続く次世代のために、「ユースワーカー」という職業を守りたいという意識があります。この集まりによって、ユースワーカーの認知度の向上を図りたい。自分が今の職に就くときには親から「大丈夫か?」と心配されたことが心に残っています。

松田 例えば高校生が親に「ユースワーカーになりたい」と言ったときに否定されない職業として確立していきたいですね。

白川 私にとって、自分たちのやっていることがユースワークだと正当化するために、ユースワーカー協議会の動きは有効だと思っていました。業界があると単独でやっている実践者には助かると思います。

松田 協議会があることでIではなくWeやTheyという言葉を使うことができるということですね。

七澤 自分にとってユースワーカー協議会の活動はユースワークの価値形成と人材育成。5団体でもそれぞれに異なることを持ち寄り、それを分配することが自分たちの団体の人材育成にもつながっています。

~編集者より
 ユースワークの業界形成、「大きなメガホン」作り、ユースワーカーの職場を守る・・・そんな面とともに、「自分たちがやっていることはユースワークなんだ」と認識し合えるようにしていく、そんな意味がユースワーカーが集まることの中にはありそうです。

―「ユースワーカー」とは誰か

松田 今の5団体は価値観・目標観を共感できています。しかし、仲間が増えることでどこかでグラデーションが出てくる。どこまでが「身内」になるのか。ユースワーカーには保育士や教員のように資格がないので、どこで線が引かれるのか……。

七澤 私は身内かどうかという線引きをあまり意識したことはありません。多様な人が集まることで多様なメニューが生まれます。その中で自分自身が選んでいけばよいのでは?

 私はそのジレンマ感、わかります。私にとって野外活動施設の職員と価値観を共感できることはよくあります。また、支援学校の先生が「ユースワークを知りたかった」とユースワーカー養成講習会に申し込んできたこともあります。そうすると「ユースワーカー」は職業名なのか、と考えることはあります。

松田 少年野球の指導者など、ユースワーカーという職業名ではなくてもユースワーカー的なことをやっている人たちもいますね。

七澤 例えば、私が所属している社会福祉士会は有資格者のみの職能団体ですが、高齢者福祉に関わっている人もいるし、私のようにユースワークに関わっている人もいる。職場はバラバラですね。

竹久 「ユースワーカー」は資格ではないものの、価値を共感できる人の集まりという点においては同じイメージでよいのではないでしょうか。

~編集者より
 「ユースワーカー」をプロフェッショナルだけに限る考え方もあるでしょうが、若者に関わる多様な人たちがユースワーカーと名乗っていけるようにする、というのが一つの考え方です。このハンドブックでもそんな立場で捉えています。

―ユースワーカー集団の力量形成について

松田 個の力が高まることで業界の力が高まるという考え方がユースワーカー協議会にも当てはまります。

白川 ユースワーカー同士、同じところ・似ているところから学ぶことは多くあります。他者や他団体の取り組みをかけ合わせていくことで新しいものを創造することができます。

七澤 人材育成は集団による効果がわかりやすいです。それぞれのリソースをシェアできることに価値があるし、エンパワメントされます。

 自分たちの団体の中にユースワーカーとしてのロールモデルは少ないですが、それを他団体に求めることができます。

松田 全国のベテランユースワーカーたちも同じ問題を抱えているのでは?ユースワーカー同士が集まることでそのキャリアモデルを見せられるのではないでしょうか。

竹久 ユースワーカー協議会では相互SVという活動を行っていて自分も参加していますが、当初の目的を果たした後も、情報交換の場として継続して他団体のユースワーカーと集まり続けています。新たなものを生むために集まっているわけではないのですが、結果的に新しいものが生まれています。私は、このこと自体にユースワークらしさを感じています。

松田 日ごろから斜めの関係を大切にしているユースワーカーは、もしかすると他の上司からも学びたい、という意欲が強いのかもしれないですね。

 ドイツのマイスターは各地を遍歴して学んでいくのだと聞いたことがありますが、ユースワーカーも同様に遍歴していけるとよいのではないでしょうか。

松田 ユースワーカー協議会があることで「遍歴」していける可能性があります。そして全国の実践者と集まり、学び合うこと、つながることは同級生や同僚とのつながりとは異なる楽しさがありますね。

 かつて、地元で居場所づくり連絡会の旗振り役をやっていたときに、他者がいることで違いを理解できる、他にも目が向いていくという経験をしました。多様な人が学べる場があることは大事。そういう意味でもユースワーカー同士、人と人がつながることの大切さを再認識しています。

竹久 ユースワーカー協議会のおかげで、所属する団体を越えて多様な人と出会えることができています。ユースワーカー同士の集まりは、ロールモデルを共有する場。ロールモデルと出会ったことで、自分の根底にある価値観を問い直すことにつながるし、それが楽しいです。この問い直しの機会やつながりを広めていきたいと思っています。

~編集者より
 狭い「身内」だけで、若者と関わる実践の力を伸ばしていくことは出来にくい、ということですね。各地で活躍するワーカーが相互に「ロールモデル」になり合う中で学び、実践の質を上げていく、そんな姿が「ユースワーカーが集まること、つながること」の意味だということになるのでしょう。

座談会
2022(令和4)年1月19日(水)
オンライン開催

≪出席者≫ ※敬称略
松田 考  (さっぽろ青少年女性活動協会)
東 晋次  (さっぽろ青少年女性活動協会)
七澤 淳子 (よこはまユース)
白川 陽一 (名古屋ユースクエア共同事業体)
竹久 輝顕 (京都市ユースサービス協会)
辻 幸志  (こうべユースネット)

≪座談会まとめ/編集≫※敬称略
東 晋次  (さっぽろ青少年女性活動協会)
水野 篤夫 (京都市ユースサービス協会/生田科研若者領域担当者)