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【寄稿】「遊びってなんだろう?〜大切なことは本質の中にある〜」

MA・SO・BO通信 第5号(2021年 5・6月号)より

【寄稿】「遊びってなんだろう?〜大切なことは本質の中にある〜」
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 「遊びってなんですか?」

そう聞かれたときに、皆さんならなんて答えるでしょうか? よくあるのは、「仕事や勉強以外のこと」「休みの日にやること」という回答が多いような気がします。果たして、本当にそれって遊びなのでしょうか?こんなことを考えだすと、「自主性と主体性って何が違うの?」「スポーツってなに?」「自然と環境の違いは?」などなど…普段何気なく使っている言葉も、深く考えていないことや、人それぞれで解釈が異なることってすごく多いような気がしてきます。このように言葉の解釈が違うと、お互いに話が噛み合わないことがあって当然なので、言葉の定義はちゃんと考えなければなりません。だからこそ、日常の中に溢れている「遊び」という言葉の本質についてもうちょっとちゃんと考えることが必要なんじゃないかなと思うのです。

遊びについて考えるときに大切なのは、周りからどのように見えているかではなく、その遊びをやっている本人の気持ちを想像できるかどうかが一番重要だと思っています。例えば、わたしは2歳と0歳の娘がいます。その娘たちは目を離すとテッシュペーパーの箱から、無限にティッシュを出したり、時間をかけて丁寧に畳んだ洗濯物を思い切りぐちゃぐちゃにしたりします。今これを読んでいる方で、子育てしたことがある方ならみんな首を縦に振っているはずです。そんなとき、わたしはついつい「ちょっと!そんないたずらやめてよー!」「いい加減にしなさい!」なんて言ってしまいますが、果たしてやっている本人はいたずらをしようと思っていたり、わたしを悲しませようと思ったりして、やっているのでしょうか?

娘からすると「楽しそうだったから・・・」「手伝ってあげようと思ったのに・・・」というすごくピュアな気持ちでやった行動が、親からするとただの迷惑行為になってしまう。やっている本人にとってはただの楽しい「遊び」でも、周りから見た人によっては「いたずら」というネガティブな表現で捉えてしまうことがたくさんあるということです。なんだかそれって、お互い損だなーと、日々の子育ての中で思うわけです。そんな日々のモヤモヤを抱えている人は、きっとわたしだけではなく、たくさんいるのだろうなーと思うと、無性に切ない気持ちになります。私も含めて、もっと心に余裕をもって子どもたちの遊びを見守ることができたらいいなと思います。

さて、わたしが代表を務めている厚真けん玉クラブ(以下:あつけん)は人口約4,400人の厚真町を拠点として週に1度のペースで活動しています。クラブは幼稚園児から高齢者まで幅広い年代で構成されており、約40人が在籍しているので「人口の1%」がけん玉をやっていることになります。これって実はすごいことで、札幌市で考えると約2万人がけん玉をやっていることになります。

あつけんのルールは「泣かない」「人に優しくする」「おならをしない」というかなりユニークなルールです。このルールさえ守っていれば、基本的に何をやっても構いません。走り回ったり、おにごっこしたり、みんなで世間話したり…そうです、けん玉をやらなくてもいいのです。「それってクラブとしてどうなの?」と思う人もいるかもしれませんが、このクラブの目的は「けん玉の技術向上」ではなく、「いろんな人がいろんな人と出会える場」なので、全く問題ありません。つまり、けん玉はその目的を達成するための一つの手段なんです。

このように、なにかをやるときは目的と手段を明確にして、「やる」という選択肢のほかに「やらなくてもいい」という選択肢を用意できるかどうかが、すごく大事だと思っています。大人も子どもも、やはり強制されたものはおもしろくないですよね?それは遊びも同じで、内側から湧き上がってきたものこそが、「本物の遊び」だと思うわけです。

あつけんに来る目的はみんなバラバラです。けん玉が上手くなりたい人もいれば、週に1回みんなの顔を見たいだけの人もいます。やるかやらないか、自分で考え、選択することで初めて、「やらされている感」が生まれず、自分ごととして物事を捉えることができます。遊びをとおして学べることは無限大。わたしは、このような感覚が日常の「遊び」にも大切なのではないかと思っています。

「集中と夢中」という話があります。日本を代表する歌人である俵万智さんと息子さんのやりとりの中で、俵さんに「遊んでいるときは全然疲れないのにね」と言われた息子さんは、「集中は疲れるけど、夢中は疲れないんだよ」と言い返したという話です。まさに、これこそが遊びの本質なのだと思います。集中ではなく、夢中になれるもの。それはきっと、誰かに言われたことではなく、自ら考え、選び、そして出会ったものなのだと思います。わたしの場合は、たまたまけん玉でしたが、世の中には人の数だけ夢中になれるものがあります。これからも遊び心を忘れず、毎日笑顔で生きていこうと思います。

斉藤 烈

厚真けん玉クラブ代表

斉藤 烈

1988年、道東の浜中町生まれ。北海道教育大学釧路校(地域学校教育専攻:授業開発コース)卒業。2011年、タイのバンコク日本人学校へ赴任。3年の任期終了後、ワーキングホリデーでオーストラリア滞在。帰国後、自然体験等を提供するNPOの職員を経て、2017年厚真町役場に放課後児童クラブのコーディネーターとして入庁。現在、厚真町役場厚真町教育委員会生涯学習課社会教育グループ主任/社会教育主事として主に地域のコーディネーター機能を担っている。
厚真けん玉クラブ代表として、「泣かない、人に優しくする、おならをしない」という方針で、幼児期から高齢者までを対象に年間50回程度、厚真町に関する講演及びけん玉の指導やワークショップを実施している。

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