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出会いと発見―実践の扉 Ⅱ 子ども・若者が安心して過ごせる「おうち」を
北海道/公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会 月刊福祉(2023年12月号)より一部抜粋
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更新日:
2024年01月16日
さまざまな理由によって見守りが必要と思われる10代の若者たちを主な対象として、居心地のよい一軒家で彼らの生活サポートを続けている団体が、北海道札幌市にある。自宅とは別に、気軽に集まることのできる親戚の家のようなアットホームな場所、「いとこんち」。児童養護施設退所者や子育て中のシングルマザーなど、制度の狭間にある要支援者にも間口を広げ、彼らが安心して過ごせる時間を提供する活動について取材した。
親戚の家のような居場所をつくろう
公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会が、「子ども・若者の居場所『いとこんち』」(以下、いとこんち)を始めたのは、2020(令和2)年6月のことである。その経緯について、こども若者支援担当部長の松田考さん(48)は次のように語る。
「私たちの法人は、児童館・キャンプ場・こども劇場・若者支援施設などで、体験活動をベースにした青少年の育成に取り組んできました。しかし、子どもの貧困が社会的に注目されていくなかで、こういった子どもたちには『安心安全な家庭で過ごす体験』が不足していると感じるようになりました。子どもたちが抱える問題の根底には、家族機能の不足や家族制度そのものの限界が垣間見える状況があります。この実情に正面から向き合い、彼らの生活そのものに関わるような支援の場をつくるべきだと考えました」
松田さんたちがめざしたのは、福祉色をできるだけ排し、親戚のような関わりで子どもたちを見守ることができる場づくりだった。相談することが目的ではなく、単純に食事する、遊びに来る感覚で集まれる場であれば、子どもたちも気軽な気持ちで参加することができる。これまで経験したことのないアットホームな雰囲気を体感した彼らは次第に心を開き、誰にも話せなかった悩みを少しずつ語ってくれるのだという。
民泊用ゲストハウスを借り支援を実施
いとこんちの基本的な利用対象者は、13~19歳の子どもたち(児童養護施設等出身者は24歳まで、子育て中のひとり親は29歳まで)である。もっともそれは原則であり、関係機関が「見守りが必要」と感じた人であれば誰でも受け入れている。
開所時間は、平日の週3日(月・火・水)の午後4~9時。7人の法人スタッフが日替わりで対応するが、特に決められたプログラムは用意していない。宿題やゲームをしたり、みんなで夕食を食べたり、お風呂に入ったり……。家庭を離れ、それぞれが自由に、思い思いの時間を過ごす。
「利用にあたっては、事前に『いとこ』登録をしてもらっています。登録時に聞き取った情報から支援の緊急度を判断し、利用できる回数を決めていくのです。利用頻度は、月1回程度から週3回まで、人によって異なります。1日の定員が6名ほどなので、同じ日に集中しないようにスタッフが調整しています」と、松田さん。
拠点となるのは、札幌市内にある一軒家で、コロナ禍で休業を余儀なくされた民泊用のゲストハウスを借りている。ここを初めて訪れた子どもたちは、その広さと美しさに感激するという。14畳のリビングと、6畳の和室、対面式キッチン、家族風呂も兼ね備えた豪華なゲストハウスなのだ。子どもたちの自宅は荒れたままの状態になっていることもあり、そんな子どもたちにとっては憧れの空間なのだろう。
子どもたちはこの場所で、「自分ち」ではないもうひとつの「おうち」として、自分の時間を満喫する。最初はひとりでスマートフォンをいじるだけだった子どもたちが、親にも話せない悩みや複雑な家庭環境などについてスタッフに口にするようになると、ようやく支援がスタートできる。内容によってはさらに踏み込み、家族、児童相談所、学校を巻き込んだ支援へとすすんでいくのである。(続きは月刊福祉12月号をご覧ください)