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寄稿【「コロナ禍に今 人形劇ができること」人は表現したい、そして集いたいのだ!】

MA・SO・BO通信 2021 3・4号より

寄稿【「コロナ禍に今 人形劇ができること」人は表現したい、そして集いたいのだ!】
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ビクッ とする電話の音。いろんな事態が頭をよぎる。はい、もしもし・・・あー、そうですか分かりました。こんな時ですから・・・いや、大丈夫です。そちらも大変ですね・・・また宜しくお願いします。

 あたりまえの日常が消え、異常な日常があたりまえになった。様々な悲惨な状況が報道されている中、創造団体は公演等がすべて中止になり収入が途絶え、劇団も個人も補助金、支援金だよりで辛うじて生きている状態が続いた。
7月頃からは、保育園、幼稚園を中心に上演が再開されてきたが、日本児童・青少年演劇団協同組合の報告では、7月段階で約3000ステージのキャンセルがあったとのこと。当然今も増え続けているだろう。創造団体が公演が出来ないことは、鑑賞の機会もないことを意味する。子どもたちは一体どうしているのだろう、医療体制の逼迫と経済のダメージのみが報道され、子どもは家庭に任され老いてきぼりだ。 4ヶ月半ぶりの公演の日 ウイルスを持ち込まないようマスクは勿論、消毒液を持って向かった。
何より園の様子が気がかりだった、しかし反対に仕事ができない劇団の状況を心配されてしまった。先生によると環境の悪化による子どものストレス状態は想像以上に深刻であるとのこと、先生方の心労もまた計り知れない。マスクによって伝えたいことの20%が伝わらないと言われている。乳児はマスク越しの保育士の表情を読み取ろうと、じっと眼を見つめるという。それは生きるための本能なのだろう。密に触れ合うことで信頼し合う、そして遊びを通して社会性を学び、知性が育まれる最も大切な乳幼児期、大きなダメージがあることは容易に想像がつく。そのストレス状態を如何に和らげるか、様々な行事が中止になるなか何とか感染リスクをコントロールすることで楽しい時間を作ってあげたいという先生方の想いが胸にしみる。
その中での人形劇の上演、変わらぬ子どもたちの笑顔と歓声に思わず目頭が熱くなった。

 先日リモートによる勉強会で紹介された、IPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)発行の「危機的状況における遊び」の中に、子どもが病気、死、孤独などの辛いテーマが含まれる遊び、例えばTVやネットで見た苦しんでいる人や助け合うシーンを表現したり、葬式の様子を演じたり、怒りや恐れなどを面白おかしくしたり、大げさなものにしたりする行動は大人には苦痛を感じるものだが、子どもにとってそれは困難や恐怖、混乱に対処する力を発達されるために有効なものであるとの記述があった。
確かに、子どもの反応に何かコロナ以前との質の違いを感じたことがあった、おだった大きな反応や、無理やり笑いたがる行動は強いストレス状態だった可能性がある。社会は、大人は子どもの状態に対して適切な対応を学ばなければならない。

 子どもはPlay(遊び、演じる等)することで傷み 疲れた心を癒し、無条件に笑いストレスを発散することで自分の感情とうまく付き合えたり、困難に向き合い人生で直面する問題を乗り越える力を高めることになるという。人生に迷った時、絶望した時に芸術に救われた話を聞く、語らずともそう感じている人はきっと少なくないと思う。だからこそ、身体をふるわせる生の舞台を届けなければならない。プロとして、子どもと出会う人形劇が果たさなければならない大切な役割は、最高の芸術を届けること、そして次の世代に文化を伝える事だとの想いを新たにできたのは、ある意味ではコロナ禍のお陰かもしれない。

 先人たちが情熱を注ぎ拓いて来た人形劇文化運動に支えられて今の私たちがいる。
その想いの形として全国の人形劇人の憧れる日本で最初の公立の人形劇場こぐま座。そして、こどもの劇場やまびこ座がある、そこで創造される人形劇は完成度が高い、特に中高生、大学生のレベルは眼を見張るものがある。館長を中心に職員の指導力によるものと思うが、劇場がのびのびと自分を表現する場を作ったことが大きい。能率主義がはびこる中、なんでも1人で早く出来ることが評価される、だが1人では出来ないから助け合う、そのことが相手を尊重することにつながる。協力して創造する喜びを体感する大切な場所がここにはある、人形劇とともに育った子どもたちが、社会人となって仲間を作り創造活動を続けること。そして、想像力あふれる子どもを育てる側に立つことを期待したい。プロになって人形劇を推進する人材が育つことも夢だ。素敵な時間を持った子どもたちの未来はきっと明るい。必ずコロナ禍の逆境も糧にするだろう、今は力を蓄え未来を想像しようと思う。
人は表現したいのだ、そして集いたいのだ。

人形劇団えりっこ主宰

竹田 洋一